時計好きとしてはこの知らせにドキっとせざるを得なかった。
私にとって,スウォッチとは,スウォッチ・グループのこと。
日本のseikoが1969年に発売したクォーツ・アストロンに始まる「クォーツ・ショック」によってスイスの機械式時計業界は大打撃を受けたが,個々のメーカーをグループ化して復活に導いた英雄のひとりがニコラス・g・ハイエック氏だ。
(他には,リシュモングループを創設した故ギュンター・ブルムライン氏がいる。1984年に新生クロノマットを生み出して機械式時計のブームのきっかけのひとつを作ったブライトリング社のアーネスト・シュナイダー氏も含めてもよいだろう。)
ショーン・コネリー似の風貌をもち,両腕にジャラジャラ(笑)と,グループ傘下の時計を所狭しとはめて闊歩している姿をテレビや時計雑誌で見るたびに何とも愉快な気持ちになった。
汎用性が高く,多くの時計に積まれているエボーシュのメーカーであるeta社も傘下におさめている。
最近では,ハイエック氏による「2010年限りでスウォッチグループ以外にはeta社のエボーシュを供給しない」という宣言によって,時計業界では「2010年問題」が起こっているが,これは,ハイエック氏によれば,昔と異なり,自社でエボーシュを開発せず,安易にeta社製エボーシュを載せ(口の悪い人は,これを「etaポン」と呼ぶ),それを高値で売るスイス時計業界に対する愛の鞭とのことだ。この言葉をそのまま信じているわけではないが,かなりの部分,真実をついている。確かに,スイス製時計の中には,実力に比して高すぎるなぁ,と思うものが多い。(その陰で,実力本位で価格も妥当なドイツメーカーが台頭してきたのは喜ばしい。ランゲ&ゾーネなどは,パテックに並ぶ地位にまで上り詰めたと言う人もいるほどだが,納得できる。私はドイツ時計のシンプルさや頑健さが好きだ。)
ハイエック氏の発言により,多くのメーカーが往年の時計業界のように自社製エボーシュを開発し始めたのは,喜ばしいことだ。(スウォッチグループではないブライトリング社もetaの名エボーシュであるvaljoux7750を独自にチューニングしたものを使っていたが,最近自社開発した。)そうすることで,多様性が生まれて,おもしろくなる。毎年のバーゼルフェアやsihh(ジュネーブ・サロン)に毎年新作を出すものの単に外装や装飾に変化をつけて,お高い価格をつけているのでは業界は収縮していく。(エボーシュ自社開発の某r社も同じようなことをしているが・・・)
本当に,時計を愛し,時計業界を愛していた人だったんだなぁ,と思う。
特に,ゼンマイで動く,生き物のようでけなげでかわいい機械式時計を復活させてくれたのはうれしい。
また,クォーツ腕時計の成功によって日本の時計産業の発展をもたらしたseikoであったが,社内では,名機grand seikoに代表される機械式時計は作られなくなった。世界を制する技術をもっていたにも関わらずである。
それが,ハイエック氏による機械式時計の復興が,日本にも波及してきて,日本の機械式時計をも復活させたのである。
地上ではお会いできなかったが,天国でお話したいものだ。
嗚呼,また,時計がほしくなってきた・・・。